お月さま、こんばんは。
■ 時風3150 ■ 2016-07-18 ■ 投稿者: 散苦遊介
普段着のまま、泣いて家を出たから、仕方なく追っていく。
(夜なんだ、腹立ちまぎれに、女が一人で街をウロツクなよ)
駅前の広場で、追いついた。
妻は歩調を緩めない。
だから二人でカケッコみたいになった。
(どこに行くつもりなんだよ)
息が切れてきた。
「あら、今日は噴水が出ていないわ」
足を止めて、目を丸くしている。
(ふん、ケンカして飛び出したくせに、噴水の心配かよ)
「いつもあるものが、ないと淋しいね」
「まあ、な」
「あッ、お月さま…」
(いい齢をして何がお月さまか…なんていま言ったらブチ壊しだぞ)
仰向いた妻の喉が白い。
レトロな駅舎の上に、孤独な月が張り付いている。
(お月さん、こんばんは)
気が付けば、夜の街で二人が肩を並べているなんて、
最近は一度もなかった。
ケンカの原因は、かならずしもおれが悪いわけではない、
だが、とりあえず、
「さっきは、おれが……」
妻の目がキラッと光った。
「あ、焼き鳥の屋台だ。いいなあ、キモ、ハツ、ズリ、タン、バラ」
(なによ、それ)
「柔らかい指が、おれの手にからみついてきた。
妻の手のひらは一年中あったかい。
チノパンツのポケットに、いくら入っているか、
おれは胸算用をはじめた。
門司区・門司港駅前
(現在は解体改築中で、この駅舎と月は幻となりました)
(夜なんだ、腹立ちまぎれに、女が一人で街をウロツクなよ)
駅前の広場で、追いついた。
妻は歩調を緩めない。
だから二人でカケッコみたいになった。
(どこに行くつもりなんだよ)
息が切れてきた。
「あら、今日は噴水が出ていないわ」
足を止めて、目を丸くしている。
(ふん、ケンカして飛び出したくせに、噴水の心配かよ)
「いつもあるものが、ないと淋しいね」
「まあ、な」
「あッ、お月さま…」
(いい齢をして何がお月さまか…なんていま言ったらブチ壊しだぞ)
仰向いた妻の喉が白い。
レトロな駅舎の上に、孤独な月が張り付いている。
(お月さん、こんばんは)
気が付けば、夜の街で二人が肩を並べているなんて、
最近は一度もなかった。
ケンカの原因は、かならずしもおれが悪いわけではない、
だが、とりあえず、
「さっきは、おれが……」
妻の目がキラッと光った。
「あ、焼き鳥の屋台だ。いいなあ、キモ、ハツ、ズリ、タン、バラ」
(なによ、それ)
「柔らかい指が、おれの手にからみついてきた。
妻の手のひらは一年中あったかい。
チノパンツのポケットに、いくら入っているか、
おれは胸算用をはじめた。
門司区・門司港駅前
(現在は解体改築中で、この駅舎と月は幻となりました)