北九州市 時と風の博物館

日常の中で見過ごされがちな北九州市が誇るべき魅力や個性を、地域資源として私たち自身で編纂し、未来へ繋げましょう。

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男は謎の関門海峡

海峡の沿岸で、夫と二人で渦潮をぼんやり眺めている。
希望退職なのに、長年勤務していた職場を去ってから、どうも夫は精気を失ったみたいで、
心配だった。
(男らしく、しゃきッとしろ!)
と言いたいところだが、男女共同参画社会の今日では、禁句だよね。
…遠くの豆粒みたいだった船が、みるみる近づいて、
それは見たこともない巨大なクレーンを載せている。
橋の下をくぐれるか、と不安に思っているうちに、クレーンは頭を下げることもなく、
ぐんぐん突進してきた。
「あッ……」
夫は声を上げる。目を円くして、固まっている。
起立した鉄柱の固まりは、橋脚の間を…強く突き刺して行く。
…通過したクレーン船を見送っていると、押し寄せた波が岸壁をドーンと叩いた。
頭からザブンと飛沫を浴びて、哀れな濡れ鼠が二人。
「わっはははは……」
笑いながらピョンピョン跳ねながら、夫は上着に付いた海水をはたき落としている。
おしとやかにハンケチで顔を拭きながら、私は怒っている。
ふと気づくと、夫の様子が変わっている。
笑い顔はいつもどおりの三枚目だが、背筋がシャキッ。
(なぜ、急に元気になったの)
結婚していても、男のことはさっぱり分からない。
撮影 門司区・和布刈神社境内